夜想曲
著者:新夜シキ


 夕暮れ時。城を出た私とアレルは、城下町を西に向かって歩いていた。ルイーダの店に行く為だ。そこで、ささやかだけどアレルの誕生日パーティを催しているのだ。

「いらっしゃい!アレル、マリア!遅かったわね」

 女主人ルイーダの大きな声が飛んでくる。店内にはアレルの友達や近所の知り合いがもう既にけっこうな人数いるようだ。
 本来この店は酒場なのだが、今日はアレルのお祝いの為に貸し切りにした上、派手な飾りつけが施されている。…ゴメン、全然ささやかじゃないや…。

「ちょっと、ここまでやるなんて聞いてないわよ?」

「あたしも『簡素に』って言ったんだけど、若干一名異常に張り切ってるヤツがいてね。まあ毎年の事よ。ん〜それにしても相変わらず、アレルはカワイイわぁ。あたしが貰いたいわぁ」

 アレルの頭を撫でながら、ルイーダはそんな不謹慎な事を言う。

「ダメよ。アレルは私のなんだから」

「…この親バカが。でも残念でした。アレルはアンタのじゃなくて…」



「アレルゥ〜☆たんじょうびおめでとー!プレゼントはわ・た・し♪」



 全身に包装紙を巻いて、頭には大きなピンクのリボンといういでたち。新婚ホヤホヤの新妻でさえ裸足で逃げ出すであろう大胆なアプローチを仕掛けてくるこの美少女は…。

「…そっか。アレルはリザのモノだったわね…」

 ルイーダの娘、リザだ。と言っても血の繋がりは無く、養子なのだが。歳はアレルと同じ6歳。
 リザはドン引きしている周りの空気を一切無視して、アレルにベタベタくっついている。しかし、あれでアリアハン王立アカデミー始まって以来の天才児だって言うのだから、世の中ってよく分からないもんよねぇ…。末恐ろしい子だわ、全く。いずれ娘になるかと思うと尚更……。ファイトよ、マリア!あんな子に負けちゃダメ!
 アレルはリザに引っ張られて、友達の輪の中に連れて行かれた。私はカウンターに座る。すぐにルイーダがお酒を差し出しながら話し掛けてきた。

「で、どうだったの?今日一日城に詰めてたんでしょ?オルテガの事何か判った?」

 私は事の顛末を説明しようとした。が…。

「あ、やっぱりいいや、言わなくて。アンタが店に入ってきた時の顔、思い出しちゃった」

「え、私そんなに顔に出てた?」

「いや、別にそれ程でもなかったけどね。付き合い長いと何となく分かんのよ。多分他の人は気付かなかったと思うけど」

「…そっか…。うん。多分ルイーダの予想通りよ」

 それから暫く、私達は無言だった。
 周りではパーティがますます盛り上がっているようだ。私達の様子に気付くものなどいない。私は唐突に席を立つ。ダメだ…。アレルには悪いけど、楽しくパーティって気分じゃない。

「ゴメン。私帰るね。なんかちょっと一人になりたいかも」

「そう…。あ、アレルの事は心配しないで。お開きになったらちゃんと連れてくから」

「ありがと。お願いね」

 そう言って私はアレルの方に近づいて行った。

「アレル、ママ先に帰るね。帰りたくなったらルイーダのおばさんに言いなさい。それと…リザ!アレルを泣かすんじゃないわよ!」

「べ〜〜〜っだ!わたしがあいするアレルにそんなことするわけないじゃない!」

 リザはそう言って私に向かってアッカンベーをして来た。こンのマセガキが…。

 店を出ると、とっぷりと日が落ちていた。…あ、今日は満月か。私は夜空に冷たく輝く月を見上げる。
 私に続いて、ルイーダが店から出て来た。

「安心して。もしリザがアレルを泣かしそうになったら、リザを泣かせてでも止めるから」

 …本末転倒だって、それ。

「それと、はいこれ。アンタにあげる」

 そう言うとルイーダは、一本の酒瓶を渡してきた。サマンオサウィスキーか…。あの人が好きだった銘柄。あの人、あんまり強くないくせに。

「ありがと。大切に飲むね」

「うん。元気出して。それじゃ、また後でね」




 ここは家のダイニング。私は電気もろくに付けず、食卓に突っ伏してルイーダから貰ったウィスキーをちびちび飲んでいた。
 服のポケットからボロボロに傷ついた指輪を取り出して、テーブルの上に転がす。

「あの人が約束を破ったのは、これで二度目だね………」

 一度目は10年ほど前。まだ結婚する前。あの人は私の誕生日に、綺麗な花をプレゼントしてくれると約束してくれた。と言うか、させた。だってあの人そう言うロマンティックな事何もしてくれないんだもん。でも、いざ当日、あの人はグダグダの二日酔いで現れた。何やら前日、前祝と称して何故か一人で浴びるほどお酒を飲んだらしく、私との約束は綺麗サッパリ忘れていたのだ。完全に確信犯。そうまでして花の一つも買いたくないのかと呆れてしまったのを覚えている。

「よっ、邪魔するよ」

 唐突に部屋の電気がついた。つけたのは…お義父さん。元大勇者ゼイアス。まあ今はアレルのいいお祖父ちゃんだけど。
 お義父さんは私の前の椅子に腰を下ろした。

「おっ、いいもの飲んでるな。ワシにもくれんか」

 私はもう一つコップを出してきて、それにウィスキーを注いだ。お義父さんはウィスキーを飲みながら、単刀直入に聞いてきた。

「オルテガの様子はなんだって?まあお前さんの様子を見れば大体判るがの」

 私は諦めたように一度大きく頷いた。

「そうか…。惜しい命を亡くしたの。 すまんが、詳細を教えてはくれんか?お前さんも辛いじゃろうが、オルテガはお前さんの旦那であると同時に、ワシの息子でもある。ワシにも知る権利があるはずじゃ」

 確かにその通りだ。正直、あんまり気は進まなかったが、私は椅子に座り直し、事の顛末を話し始めた―――――



――――あとがき

 正ヒロイン・リザちゃん登場です(笑)。しかしプロローグにおける彼女の出番はここだけです…。故に過激度若干アップ(笑)。
 彼女の活躍は、ルーラー様が書く本編に期待するとしましょう。



――――管理人からのコメント

 第二話です。いやー、リザがぶっ飛んでますね〜。プロローグで出番がこれだけというのは、もったいない気がします。なにせ、僕の書くリザはもうちょっと落ち着いたキャラになってしまうでしょうから。
 本編での彼女の活躍にも乞うご期待ではありますが、う〜ん、シキさんの書くリザがこれでおしまいというのは、やはり惜しい。

 さてさて、今回のサブタイトルは『ヴァンパイア十字界』(スクウェア・エニックス刊)の第二十四話からとなっております。まあ、リザのおかげで少々騒がしい感じの『夜想曲』となっていますけどね。でもピッタリのサブタイトルはこれしかなくて……。マリアとゼイアスが話すシーンのサブタイトルとしては合っていると思うのですが……。
 まあ、そこまでサブタイトルにこだわらなくてもいい気はしますけどね(笑)。
 それでは。



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